諸事情により電話の無い環境に居る祖母に親戚が連絡を取れるような機器が欲しい。緊急連絡用途ではなく、単なるコミュニケーション用途で。その電話で生命の安全を保障したいわけではないのでミッションクリティカルな物では無くて良いという前提で。
時代劇専門チャンネルを当て込んで契約したケーブルTV用チューナは付属のリモコンに30個を超えるボタンがあり、祖母には全く使いこなせなかった。「時代劇専門チャンネル」を目的に契約した事は売り込みに来た営業の人は承知のはずで、扱うのが80を超えた老人であることも見て知っているはず(当時既に半痴呆の祖母が1人で在宅時に来たので勝手に契約してしまった)だが、そういう商品しか提供できなかったのだろうかと思う。
チューナ特有のE-メールの様なお知らせ機能は言うに及ばず、TVの電源ボタンとチューナの電源ボタンという二つの電源ボタンの区別すら、1年使って最後まで覚えられなかった。リモコンに赤いマジックで丸を付けていても、押さなくていいところを押しては「TVが映らなくなった」という電話がほぼ毎日あり、しまいには「映らない時は見ない」になってしまい電話すら来なくなった。電源の切り方が解らなくなると最終的にはコンセントを引っこ抜いてあった。(電源を入れなおすと映らないチャンネルで音量最大、盛大なノイズ音に驚くなどと言う事もあった)
「余分なボタン」というのは押したくて押しているわけではなく、手元がおぼつかないのでぶつかっているだけと思うが、それでも押してしまったら本人は元に戻せない。
そんなユーザを前提に、それでもなんとか使える機器となると、いわゆる「シンプルフォン」などではボタンがあまりに多すぎて問題外。最新のケータイを使いこなす若者から見ればシンプルだが、生まれた時に自宅に電話が無かった世代からみてお世辞にもシンプルとはいえない。
実際、祖母が80を過ぎてから新しく購入した機器で使えたのは、時計を除けば介護用品の(当時設置していた)緊急用電話のみだった。
30cm大(10年前のノートPCぐらい)のサイズの機器に、スピーカーとボタンが一つ付いただけの電話。固定・携帯電話からその緊急電話に発信すると、利用者が意識的に受話器を取ったり、ボタンを押さなくても着信し、ハンズフリーで会話できる。平時にボタンを押すと予め登録された連絡先に電話がかかる。それぐらいのシンプルさが求められる状態。
そんな折に前掲のデジタルフォトフレームを見かけ、てっきりSDカードの様な外部メディアで写真を追加するのかと思えば、携帯網経由で更新できるらしい。メールで更新用となると、一般の会話も可能な携帯とは違うのかもしれないが、どうせ携帯網に繋がっているなら電話も出来るとありがたい。
しかし、製品写真を見る限りボタンが7つはある。多すぎる。順送りや逆送りなどという高度な機能は要らない。一つで良い。
平時にボタンを押すと写真のランダム交換、電話着信時にボタンを押すと受信開始。これぐらいでいいと思う。十字キーやメニューボタンは背面かフタの下にでも隠して、本人以外が調整時に使えば良い。
そう考えるとボタンは一つもなしでタッチスクリーンの方がいいかもしれない。iPhoneの様なフリック操作で写真を変更でき、電話着信時には発信者の顔写真と受話器マークが表示され、タップしたら受信開始とか。
本人が間違えて切らないように電源ボタンも隠して良い。
音量調節ツマミもいらないと思う。発信者側が#とか*とか押して遠隔操作とかできたらいい。
あとは、立ったまま手に取り持ち歩こうとすると高確率で落とすので50cm位から落下させても大丈夫な耐久性と、お茶ぐらいこぼしても大丈夫な防水性。
まとめると
- 遠隔写真追加機能(既存)
- フリック操作で写真入れ替えできるタッチパネル
- ハンズフリー会話可能な電話着信機能
- ボタンゼロ。電源も音量も全部隠す
- 音量は発信者側で遠隔調整又は自動調整
- 50cm高ぐらいからの耐衝撃性
- 生活防水
なんていう製品がでないかなぁと期待している次第です。とくにデジタルフォトフレームなのは、(白黒も含む)昔の写真が大量にあるのですが、引越を機にそれを私が引き受けて整理中なのもあります。
昔ながらの大きくて分厚くて重いアルバムって危ないんですね。持ち歩くと転ぶし、足の上に落としたて怪我でもされると困るし。なので薄くて軽いアルバムに張替えているのですが、デジタルなら全部microSD一枚に入りますしね。
ボケ老人というと志村けんのコントぐらいしか知らなかった自分には、痴呆の進む老人というのが実際にどれだけ大変か目の当たりにするまで想像も及びませんでした。せいぜい「ビデオの録画予約が出来ない母親」というステレオタイプな機械音痴の延長線でしか考えていませんでした。
上では批判めいた書き方をしていますが、もし自分がリモコンの設計者で、身内に高齢者がいなかったら「こんなもんだろう」とか「なんとかなるだろう」と思っていたでしょう。実際に私自身がそのリモコンを最初に見た時は、説明書無しで大概の機能はすぐに使えたので、祖母に説明するのがあれ程大変だとは予想だにしていませんでした。
プログラムの開発でも「そこまで考慮しなくていいだろう」なんていう勝手な線引きは、デッドライン間近になるほど良くありました。そもそも引越の際に(家財はかなり処分したので)「仏壇とアルバムだけは捨てないでくれ」というのが祖母の強い要望でしたが、自宅に仏壇も神棚もなく写真も殆どとっておかない自分や親戚は8割がた処分するつもりでした。
年を取ると嫌でも能力が低下することを前提に考えると、若いうちは今の自分から見てちょっとぐらい難易度が高いと思えることに従事するぐらいがちょうどいいのかもしれません。
今後の心配は、携帯のアドレス帳に新規登録できない母や親戚の伯母です。今は祖母の介護で気を張っていますが、ポジションが一つスライドした時にどうなるか、自分は今ほどに面倒を見られるかどうか。
前半ではあくまで特定の環境に最適化した製品の要望を書いていますが、それ以前の「毎日、直接会えばいいのでは?」といった、ごもっともな対応は既にしている前提です。書いていないのは、していないからでも、思い至らなかったからでもなくプライベートすぎる内容は伏せているだけである、と思って行間は埋めてください。その上でちょっとしたスキマを埋める製品の妄想です。